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【数学ミニ講座】定跡と手筋を使いこなそう その1

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こんにちは。じーむです。

少し前の記事にも書きましたが、最近将棋を始めました。将棋は奥が深いですね。学ぶべきことがたくさんあります。


将棋の用語で「定跡*1」と「手筋」というものがあります。詳しい用語の使い分けはわかりませんが、定跡とは「この手順で指すとこういう良い結果を生みますという最善・有力な手順や流れ」、手筋とは「アドを生みやすい単発のテクニック」みたいな認識をしています。本当はちょっと違うのかもしれませんが、この記事中ではそういうものとしてください。


さて、僕は普段受験生の数学を指導する中で上でいうところの「定跡」と「手筋」を強調しています。どういうことか伝わらないと思うので、整数解を求める問題を例に説明してみますね。


整数解を求める問題には色々なネタがあり、多くの解法があるようにみえますが、ほとんどの場合で以下の3パターンのいずれか*2に帰着されます。

  1. 1文字について解く(その後、帯分数化が多い)
  2. 1辺を因数分解形にする(一次不定形含む)
  3. 1辺を最大or最小の変数にそろえて不等式を立式し絞り込む

これは定跡です。整数解を求める問題ではこれらのいずれかに持って行こうという流れが頭の中で構築されます。


まあ、文字では分かりづらいと思うので例題をやってみましょう。


\displaystyle \frac{3}{x}+\frac{4}{y}=5をみたす正の整数xyの組を求めよ。



この問題は上の3つのやり方のどれでも出来ます.

ではまず1のやり方「1文字について解く」から.
\displaystyle y=\frac{4}{5}+\frac{\frac{12}{5}}{5x-3}
yについてときます.分数がうっとうしいので
\displaystyle 5y=4+\frac{12}{5x-3}
とします.さっき定跡を列挙したときに帯分数化と書いたのはこの操作です.
ここで,5yは整数ですから,\displaystyle \frac{12}{5x-3}は整数じゃないといけませんね.
つまり,5x-3は12の約数ということです.ここで注意しないといけないのは,約数は負も許すということです.
一般的に約数は正の数のみを指します.しかし,整数問題で約数を考えるときにはきちんと負の数の可能性を考慮しないといけません.
今回でいうと,5x-3=-4とかの場合も考えましょうということです.

とはいえ,ここで大マジメに負の数も含めた12の約数12通りを考えてしまうのは賢いやり方とは言えません.場合分けは極力減らして骨折り損のくたびれ儲けとならないようにしましょう.xは正の整数ということでx \geqq 1なのですから 5x-3 \geqq 2です.つまり,先ほど5x-3が12の約数であると書きましたが,2以上のものだけについて考えればよいのです.結局,負の場合は考えなくて良いのでした.

このように,場合分けを減らす方法を模索するというのは僕風の表現をすれば手筋のひとつです.手筋は問題を解くスピードに関わってきます.

さて,問題にもどります.以上の考察から5x-3の値の候補としては2, 3, 4, 6, 12です.これらをしらみつぶしに調べていきましょう.調べてください.

結局,xyが整数となるのは(x, y)=(1, 2)(3, 1)のみということが分かります.

ちなみに,この問題はxについて解いてもいけます.やってみてください.


次に,2のやり方「1辺を因数分解形にする」をやってみましょう.
まず両辺にxyをかけます.
3y+4x=5xy
5xy-4x-3y=0
\displaystyle (5x-3)(y-\frac{4}{5})=\frac{12}{5}
無理やり5xy-4x-3yの形をつくると定数項が0でなくなって全体的にゴチャっとします.
両辺に5をかけて整理してください.
(5x-3)(5y-4)=12
です.(5x-3)(5y-4)はともに整数なので,かけて12になる整数の組を探していけば大丈夫です.ここでもさっきの手筋が使えますね.
5x-3 \geqq 25y-4 \geqq 1から場合分けを減らせます.以下は上とほとんど同じなので省略します.

因数分解形を作るまでの操作がまるで魔法なので混乱する生徒がたまにいますが,これは定跡なのでやり方を頭に入れて練習するしかありません.なんで思いつくんですか!?とか言われても「そういうものだから…」としか言えません.


最後に,3のやり方「1辺を最大or最小の変数にそろえて不等式を立式し絞り込む」をやってみます.
と意気込んでいるとのっけから困っちゃいます.最大or最小といわれてもxyの大小については言及されていないからです.言及されていないのなら自分で仮定(=場合分け)すれば良いんですよ.これは手筋です.自分で大小を設定するとうまくいくことがしばしばあります.

 0 < x \leqq yのとき
\displaystyle 5=\frac{3}{x}+\frac{4}{y} \geqq \frac{3}{x}+\frac{4}{x}=\frac{7}{x}
と二変数の不等式を一変数の不等式にできました.これを解いて
\displaystyle x \leqq \frac{7}{5}
つまり,この場合は可能性としてx=1しかないんですね.実際に与式に代入するとy=2が出てきます.
ちなみに,ここで不等式をyで絞ろうとすると \displaystyle y \geqq \frac{7}{5}と出てきてうまくいきません.どちらに揃えるかは臨機応変に.

もうひとつの場合分けもキッチリやっておきましょう.
0 < y < xのとき
\displaystyle 5=\frac{3}{x}+\frac{4}{y} < \frac{3}{y}+\frac{4}{y}=\frac{7}{y}
より
\displaystyle y <\frac{7}{5}
です.あとは同じです.


とまあ,このように整数解問題には大きく3パターンの定跡があり,随所で計算や操作を楽にする手筋を使います.今回の問題はどの定跡でやってもうまくいきますが,どれかひとつじゃないとうまくいかないという場合もたくさんあります.だから3つのパターンを全て頭に入れておいて,試験場でどれがうまくいくかを検討していくのです.


定跡を学ぶことは答案を作る際に必要な方針の骨格を与えてくれるので極めて重要で,いわゆるチャート式などの網羅型問題集の例題をゴリゴリ回す作業は定跡の学習です.ですが,これだけでは不十分です.手筋のストックが貧相だと時間がかかるからです.手筋は実践の中で発見したものを蓄積していくしかありません.手筋本みたいなものは少ないです(あとでいくつか紹介しますが).なので,手筋を発見したり教えてもらったら自分なりにまとめておくと良いです.相当役に立ちます.ちなみに定跡を覚えるメリットはもうひとつあって,定跡のやり方を試してうまくいかないものは難問と判断して飛ばせるというひとつの指標になりますが,定跡の流れが見えるまでに手数を要する問題も結構あるのであまりアテにしない方がよいかもしれません.


念のため言っておきますが,どこまでを定跡とみてどこからを手筋と捉えるかは人次第です.僕は知識は力だと思っているので,覚えられるものは覚えるべきだと指導しています.こういう暗記重視のやり方を本質的ではないと言って嫌う人は一定数いますが,少なくとも成績を取るという点では明確にこちらに分があります.なにより,僕は数学の本質とやらを理解していないので教えることが出来ません.すみません.


最後に,手筋本の紹介をします.といっても手筋本は2冊しか知りません.基本的に定跡をマスターしたら後は標準的な入試問題を解きまくって手筋を獲得していくのがベストだと思っているので,手筋本の優先順位は低いです.

解法の突破口(第3版) (大学への数学)

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東京出版の『解法の突破口』です.講義篇と問題篇の二部構成で,講義篇はそこまで難しくないのですが,問題篇は割と難易度が高くかつ分量も多いです.講義篇だけでもやる価値はあると思います.

テーマ別演習① 入試数学の掌握 総論編 (YELL books テーマ別演習 1)

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  • 作者:近藤至徳
  • 発売日: 2011/09/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
有名な『掌握シリーズ』です.ネットで書かれているほど難しくはないと思いますが,余力のある人向けであるのは間違いないです.秋くらいからちまちま解いていくと良い感じかもしれませんね.行列が範囲だったころから改訂されていないので結構そういう問題が混ざっています.たまに良くない解法でやっていたりするので注意しましょう.全3巻あるのですが,僕はあまり合わなかった本番が来てしまったので1巻しかやっていません.2巻以降が素晴らしかったらごめんなさい.


以上で伝えたかったことは終わりです.次回は意欲的な人向けの少し発展的な問題とその解説になります.今回の記事の内容に関連していますが,完全に自己満足なので読み飛ばしてもらって結構です.え?この記事全てが自己満足?残りは読み飛ばしてもらって結構です.もう終わりですが.



一応,次回解説する問題を載せておきます.

m^ 4+14m^ 2が2m+1の整数倍となるような整数mをすべて求めよ.

今回紹介した定跡では解けませんが,別に問題としては大して難しくないです.わからない人からすればサッパリなので差がつきそうですね.僕は好きです.




おわり

*1:定石は石なので碁の方に用いるそうです

*2:もちろん、他のパターンもありますが、あまり見かけません