ぱらダイアリー

読むタイプのウンコです

テキトーなことを書くのはやめよう

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こんにちは。じーむです。


みなさんはinfodemicって聞いたことありますか?


見れば分かる通りinformation+pandemicが由来の言葉で、文字通り「情報(特に不正確なもの)が感染症のように急速に拡大するさま」を指します。


新型コロナウイルス感染症に関連した様々な情報の飛び交う昨今、かなりアツい単語です。


ある研究*1によると、虚偽のニュースの方が真実のニュースよりも広がりやすいらしいです。特に、不安をあおるような情報は刺激的ですからね。


そんなわけで、普段のネットサーフィンならともかく、流動的で真偽の入り混じった時事に関して情報収集する際は、信頼できるソースを自分で批判的に吟味する必要があるわけです。


では信頼できるソースとは何かというと、peer-reviewされてpublishされている論文とか、官公庁・国といった当局の公式文書などがあるわけです。


インターネット知識人の方はどうも自分の発言に信憑性を与える手段として前者の†論文†がお好きなようです。たしかに論文がソースであることは情報に一定の信頼性を与えます。しかし、僕が見ている限り彼らは「ある論文によると」や「ある研究によると」で済ませることが多く、どの論文かは教えてくれないですね。これではインターネット知識人ごっこです。ソースがないのと大差ありません。


100歩譲って、配信で質問を捌くターンならパフォーマンスの一環としてそれでも良い(良くない、納得してしまう側にも問題がある)のですが、書籍でもその態度はいただけませんよね。引用したら正しく出典を書く。大学時代のレポート、どうやって乗り切ったんですか?


論文の引用ってマジで簡単で、Google Scholarで論文のタイトルを入れて検索かけて、「"」のマークを押して出てきたやつをコピペするだけですよ。


日本のジャーナリストのアカデミックなリテラシーはカスなので(クソデカ主語)、ソースは明示されないことが多いです。やっぱり、大学で剽窃しまくって単位をかき集めていたから?


じゃあ、ソースを明示すればよいのかというとそうでもないです。

news.yahoo.co.jp


これは2年くらい前のニュースですが、印象的だったため今になって押し入れの中から引っ張ってきました。


問題の箇所はここです。3つ問題があります。

昨年5月には、イギリスの医学雑誌「ランセット」に、MDMAにより、退役軍人や消防士、警察官など慢性的PTSDに苦しむ107名の患者の68%に症状の改善が見られたという第2相臨床試験の研究結果も掲載された。


まず1つ目の問題。引用の方法がまずい。


ランセットとは医学界で臨床系の3大雑誌*2と言われているすごいジャーナルです。要は、これに掲載されている論文はすごい*3ことが多いんです。


それで、このジャーナリストは論文*4へのリンクを貼ってくれています。


で、リンクを踏んでみたら「The Lancet」じゃなくて「The Lancet Psychiatry」やんけw


いや、「The Lancet Psychiatry」がショボいとかそういう話ではないですよ?でもハイパーリンクの文言が「ランセット」はマズイでしょ。ソースっぽいものを書こうという意識は偉いですけど文を書いてメシ食ってるなら引用くらいはちゃんとしてほしいですよね。リンク張ってアバヨ!はまずいです。そんな荒業は大学1年の夏までしか許されません。しかも、女子大生に限る。


2つ目の問題。(多分)しっかり論文を読んでいない(ヤバ)。


僕が見た限り「107名の68%に症状の改善が見られた」とはどこにも書いていないです。26名を7人:7人:12人に振り分けていますが……


3つ目の問題。解釈もまずい。


この論文は「管理された状況下で有効量のMDMA併用下心理療法は、退役軍人とかのPTSD症状の軽減に有効で、許容可能ですよ」としか言っていないんです。タイトルの「米国ではPTSD治療薬になる日も近い」は言いスギ薬局ですね。


そもそも、門外漢は知らないと思うんですけど、このstudyは第Ⅱ相試験ですね。薬ができるのってメッチャ大変で、いろんなフィルターを越さないといけないんです(リンク先にキレイな図が載っています)
www.seikagaku.co.jp


リンク先のイラストを見てもらえば分かると思いますが、第Ⅱ相試験ってマジでまだまだなんですよ。第Ⅲ相試験を実施する際の、安全性や用法・用量を設定する目的の場合が多いですからね。だからほら、このstudyのnも小さいでしょ?


そんなわけで、専門性を持っている人からすれば(意図したかどうかはわかりませんが)そりゃないでしょって感じのタイトルの記事になってしまったのでした。


そもそも、このstudyにもweak pointがあって、エンドポイントがアレとか、振り分けの根拠が謎とか……まあ、この辺はややこしいので触れませんが……


まとめると

  • 流動的で真偽入り混じった情報を収集する際は信頼できるソースから探そう
  • (きちんとした)文章を書くならちゃんと引用するのが当然だよね
  • でも、きちんとしたソースが明示されていても書き手の問題で正確性が損なわれることがあるよ

というお話でした。何したらいいかわからなくなってしましたね。


まあ、インターネット知識人の皆さんの「論文によると」などといったキラーフレーズがいかにあてにならないかは分かったと思います。それでは。

*1:Vosoughi, Soroush, Deb Roy, and Sinan Aral. "The spread of true and false news online." Science 359.6380 (2018): 1146-1151.

*2:残り2つはNEJMとJAMA

*3:ランセットに載っている=正しいみたいな思考は、啓発本を好む人たちと思考レベルが変わらないのでやめましょうね

*4:Mithoefer MC, Mithoefer AT, Feduccia AA, Jerome L, Wagner M, Wymer J, Holland J, Hamilton S, Yazar-Klosinski B, Emerson A, Doblin R. 3,4-methylenedioxymethamphetamine (MDMA)-assisted psychotherapy for post-traumatic stress disorder in military veterans, firefighters, and police officers: a randomised, double-blind, dose-response, phase 2 clinical trial. Lancet Psychiatry. 2018 Jun;5(6):486-497.